【重伝建】
嵯峨鳥居本



伝統建築物のごった煮

嵯峨鳥居本は、京都の有名観光地・嵐山の北西、嵯峨野地域でも最も奥の愛宕山麓に位置します。室町時代に農村として開かれた鳥居本地区は、江戸時代中期には愛宕詣の鳥居前町として栄えました。現在は愛宕街道に沿って農村建築・京風町家・茶屋建築など、年代・形式とも様々な建築物が肩を寄せ合い、独特な景観を形作っています。
重伝建地区は愛宕街道の内、八体の地蔵尊が並ぶ三叉路から愛宕山の一之鳥居までの約600mで、途中にある化野念仏寺を境に市街地側が下地区、愛宕山側が上地区と呼ばれています。


重伝建地区のスタートに建つ奥嵯峨苑。今も招待制を続けるという老舗着物問屋です。間口の広い町家建築が非常に良好な状態で残されており、初めから気分の高まる建物です。
この向かいには八体の地蔵尊がありますが、そこは写真を撮り忘れました。
重伝建地区に入ってしばらくは白壁の町家が続きます。嵐山からは結構な距離があるのですが、多数の人力車が入ってきていて驚きました。
多くの家に“煙出し”(けむだし・排煙窓のこと)が載っており、街並みのアクセントになっています。

愛宕街道に沿って町家が並びます。鳥居本の伝統建築は全体の約半分で、意外と町家が連続した街並みは少なめです。
嵯峨鳥居本は京都市街地の外れとあってかなり落ち着いた雰囲気の町ですが、化野念仏寺の知名度が向上するにしたがって徐々に観光地化が進んでいるようです。沿道の伝統建築も、特に下地区では多くが土産物屋などに転用されています。
こちらはお香の老舗・井和井さん。我が家のお香はいつも井和井で買っています。
店内はこのように大きく改装されており、もはや原形を留めているのは外面だけですが、逆に言えば店舗化して採算が成り立っているから京都市内に伝統建築が残っているともいえるので何とも難しいところです。

鳥居本の町家は、虫籠窓や千本格子など京町家風の外観をしていますが、中心部の町家よりは間口が広く取られています。これは土地に余裕があり、古の農家建築の地割を継承していることが大きいかと思います。また、2階の軒が低い厨子二階となっているのも特徴で、京都市街の町家には本二階が多いこととは対照的です。
ちなみに地区内での町家の外見はほぼ統一されている様子です。

街並みの半ばに位置する化野念仏寺。化野は平安時代から続く京都の墓地であり、風葬の地として知られています。西暦800年ごろ、弘法大師が五智山如来寺を開創し、この地に野ざらしとなっていた遺骸を埋葬したことが始まりであるといわれています。
化野念仏寺といえば約八千体にも及ぶ石仏で知られています。これらの石仏は化野の山野に散乱埋没していた無縁仏を、明治中期に地元の人々の協力で集めたもので、それぞれが化野一帯に葬られた人々のお墓となっています。この無縁仏の霊にローソクをお供えする千灯供養は地蔵盆の風物詩として知られ、その不気味ですらある光景がパワースポットとして近年人気を集めています。
化野念仏寺を過ぎると上地区に入り、茅葺屋根の大きな民家がお出迎え。少しずつ街並みが変化していきます。
この民家は(この角度ではわからないのですが)上から見るとL字の形をした曲り家になっています。曲り家といえば東北・南部地方が有名ですが、京都では珍しい形態です。
化野念仏寺から少し上ったあたりにある街並み保存館。入場可能で、昭和初期の愛宕街道を再現したジオラマなどの展示があります。訪問時は閉まっていました。
ちなみに、鳥居本の町家は外観こそ京町家風ですが、広く取られた土間や田の字の部屋割りなど、内部は農家建築に近い造りとなっています。街並み保存館は内部もよく原形を保っているようで、中に入れば土間なども見られるはずです。

一之鳥居が近づいてくると、茅葺の民家が密集した眺めが見られらます。
背景に山々を背負った農家建築は情緒があり、自然とよく融和した見事な光景です。

まもなく見えてくる大きな鳥居が、愛宕山の一之鳥居です。街並みはここまでですが、この2km先に愛宕念仏寺があります。訪問時は開門時間を過ぎていたのでここで折り返しましたが、愛宕念仏寺でも多くの石仏に囲まれた不思議な空間を味わうことができます。
振り返れば、古道に沿って立つ茅葺民家の苔むした屋根が、大変良い雰囲気を創り出しています。鳥居本は京町家から農家建築へ、街並みが大きく変わる珍しい伝建地区で、歩いていて楽しい街です。
こちらは一之鳥居の畔で四百年続く、老舗鮎茶屋・平野屋。春は山菜、夏は鮎、秋は松茸、冬はぼたん鍋と、季節毎に京料理が楽しめる名店です。老舗だけあってこれまでの茅葺民家よりもひと回り大きく、堂々とした佇まいです。
緑と朱と茶が程よく混ざった、山間の民家ならではの静寂な風景が、京都市内で味わえるのは喜ばしいことです。できればあまり観光地化せずに、このままの眺めが残ればいいですね。


おまけ
重伝建あるあるの、伝統建築に擬態した消火栓。こういう設備を見つけるとちょっと嬉しくなりますね。



クセス
阪急嵐山駅から京都バス・清滝行きに乗車
鳥居本バス停下車、徒歩5分ほど


京都市
https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000281764.html
あだし野念仏寺パンフレット

0 comments:

コメントを投稿

TOPIC