新喜皮革の工場見学へ行ってきました


皮から革へ

こんにちは、桜木です。
2021年7月18日に、兵庫県姫路市にある新喜皮革(しんきひかく)さんの工場を見学させて頂きましたので、本日はそのレポート記事です。

新喜皮革は日本で唯一のコードバンをなめす技術を持つタンナーで、靴好きのみならずレザークラフト趣味者であれば聞いたことがあるかもしれません。コードバンの染色技術で知られるレーデルオガワも、新喜皮革製のコードバンを染めています。

13時に工場前に集合し、いざ工場見学へ!
メディアにもよく登場している新喜皮革の原田専務がエスコートしてくださいました。

※以下に馬から剥ぎ取られた状態の原皮の写真が出てきます。苦手な方は写真を拡大しないなどでやり過ごしてくださいね。




第1工場の1階には、原皮の状態の馬皮が積まれていました。
新喜皮革で扱っている馬皮は、品質の安定している欧州産のものが中心だそうです。これらの原皮は海を越える間に腐敗しないよう、水分を飛ばし塩漬けにされて輸送されてきます。
革製品には、食肉用の馬のみを使っているようです。馬肉を取るために屠畜された馬の副産物が革として利用されており、馬皮の活用は廃棄を減らすサステナブルな取り組みであるともいえます。
原皮には毛や尻尾、一部には肉も残されており、皮革が動物由来のものであることを改めて感じさせてくれます。表面には塩の結晶もついており、酸味と生臭さが混ざったような独特の香りを放っていました。
原皮はこの巨大なドラムで洗い、塩漬けの状態から原皮へと戻します。その後は毛や肉片を除去し、お尻とその他の部分に切り分けたのちに鞣し(なめし)の工程へと移ります。



『鞣し』とは、字のごとく皮を柔らかく加工するための工程です。同時に腐敗を防ぐ加工を施す意味もあり、この工程を経て『皮』から製品としての『革』へと姿を変えていきます。
鞣しには大きく2つの方法があり、1つはタンニン鞣し、もう1つはクロム鞣しです。
タンニン鞣しは、植物由来の天然素材であるタンニンを使った鞣し方法です。タンニンは様々な植物から採取できますが、新喜皮革ではミモザの樹皮から採取したものを採用しているそうです。タンニン鞣しのメリットは、経年とともに色が変化していくエイジングが楽しめること。革製品を愛する皆様の中には経年変化を楽しみにしている方も多いと思いますが、その場合はタンニン鞣しの製品を買うとハッピーになれるということです。
タンニン鞣しは、写真の巨大な水槽に薬液とコードバンを浸して機械で攪拌しながら、1か月近くの時間をかけて鞣していくようです。
クロム鞣しは化学素材を使った鞣し方法。ドラムを使って1日で仕上がるようで、生産効率の良さが一番のメリットです。また染めた際の発色が良く、かつ経年変化がないとのこと。お気に入りのカラーがはっきりしていて、ずっとその色を保ちたい場合はクロム鞣しの製品が合っています。私のような派手色好きファッショニスタにはクロム鞣しの方がぴったりかもしれませんね。
鞣しが終わると、革を干す工程に移ります。
写真は第1工場の2階で、ここの天井から革を吊り下げて干すようです。見学時は大量の革が積まれているのみでしたが、工場いっぱいに革が吊られている光景は圧巻だろうと思います。



第1工場の2階ではコードバンが取れる部位についての説明がありました。
緑の服の原田専務が手にしているのが馬のお尻の革。大体両手いっぱいぐらいの大きさがあり、この中の一部にコードバンが隠れています。お尻の革はその形から『めがね』と呼ばれたりします。
下に敷かれているのは馬の半身2枚で、お尻以外にはコードバンは存在しないため、ホースハイドとしてかばんやレザージャケット等に使用されます。
馬のお尻には銀面と裏面(スエード面)との間に『コードバン層』が存在しています。コードバン層は馬の個体によってサイズはまちまちで、存在しない個体もあるようです。写真ではわかりにくいですが、真ん中の折れているあたりは毛羽立ちがあり、その周辺と比べて光沢が薄いことがわかるでしょうか。(後ほどもっとわかりやすい写真があります)
コードバン層がない部分は、いくら磨いても光沢は得られないようで、コードバンが採取できる面積は個体差に左右されてしまうようです。
しかし、あまりにムラがあると仕入れが博打になってしまいますので、安定してコードバン層が見られる欧州産に限って買い付けているみたいです。

この後は第2工場へ移動し、仕上げの工程を見ていきます。



鞣しが終わると染色・加脂の工程です。
染色は革と染料を共にドラムで攪拌し、革に色を入れていきます。工場長がカラーチャートを手に説明してくださいましたが、何度か染めを繰り返しながらクライアントの希望するカラーに近づけていくようです。明るいイエローやビビットピンクのサンプルもあり、靴製品化が期待できますね。
加脂は文字通り革へ脂を加える工程で、多く加えるとより柔らかく粘り強くなります。ジャケット等柔軟性が求められる場合は多めに、カバンなど自立する程度の硬さが求められる場合は少なめに、用途に応じて量は見極めているようです。靴を手入れするときも、例えば油分が多めのアニリンカーフクリームを刷り込むと革が良く伸びますね。原理は同じだと思います。
工場の奥では実際にドラムが回転していました。ドラムは人の背丈の2倍ほどもあるため、これが回転する様は迫力満点です。



レージング

次はいよいよ最終仕上げ、グレージングを行います。
グレージングとは、コードバン層の上に載っているスエード層を掠め取り、毛羽立ちを寝かせてコードバンならではの濡れたような艶を出していく工程です。
原田専務が右手に持っているガラス棒を、コードバンに押し当てて艶を出します。
コードバン靴のお手入れをしたことがある方は、アビィレザースティック(またはかっさ棒)を使って毛羽立ちを均した経験があると思います。グレージングでは、かっさ棒の代わりにガラス棒を使って、同じことをしているわけですね。
もちろん、大面積のコードバンを何枚も手で仕上げるわけにはいきませんので、先端にガラス棒のついた専用の機械を熟練の職人が操って作業が進められます。
ガラスで均された後は、写真の通り見違えるようにつやつやになります。棒を当てる強度は革の厚さなど状態を見ながら職人が調整しているようで、熟練の手さばきであっという間に光沢が生まれます。この光景を覚えていれば、毛羽立ったコードバンの靴をかっさ棒で擦るだけで艶が出るのも納得ですね。
1枚のコードバンを約3分で仕上げるそうです。




数々の工程を経て、製品となったコードバンです。原皮の状態からここまで、約10か月の月日を得て製品として仕上げられています。
艶のある部分と毛羽立っている部分、この写真では違いがはっきり分かるのではないでしょうか。グレージングの作業は全体的に行っていますが、毛羽立っている部分にはそもそもコードバン層が存在せず、いくら擦っても光沢が出ないわけです。
このように存在する箇所が限られること、10か月物長い時間がかかることから、コードバンは革のダイヤモンドとも呼ばれる貴重な存在なのですね。


コードバン、もちろんその他の皮革も、職人の技術と思いが詰まった素材です。我々革製品の愛好家としては、相棒として長く大切に使うことでその思いに応えていこうと思います。
新喜皮革では年に1回、一般を対象とした工場見学の機会を設けてくれています。同時にレザーフェスティバルも開催され、新喜皮革製のコードバン革や、姫路や龍野のレザークラフトブランドの販売会でたいそう賑わうイベントです。革好きの皆様はぜひ一度足を運んでみてください。

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