長文だよ
こんにちは、桜木です。
私の好きな革靴ブランドは、なんといってもVASS(ヴァーシュ)!
タイトルを“0足目”としたのは、私の所持するヴァーシュを1足ずつ紹介するつもりだからです。この記事はその鑑として、ヴァーシュのブランド紹介と、私の考える魅力をたっぷりと紹介します。
東欧靴は米・英・伊に続く第4の革靴の世界です。
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概要
ヴァーシュはハンガリーの靴工房。
私が初めてヴァーシュを手にした2019年時点ではまさに“知る人ぞ知る”といったブランドでしたが、コロナの流行下でセールが続いたため、良くも悪くも知名度が上がってました。とはいえ、購入に至るのはそれなりの靴好きに限られるんじゃないでしょうか。
ヴァーシュのブランドをざっくり説明すると、ハンガリーの古き良き技術と、欧州の高品質な皮革を掛け合わせたブランドです。日本の伝統芸能や重伝建と同じように、たまたま古いものが残っていたから再注目されるというトレンドは世界的なもののようですね。
ヴァーシュは現在も、アッパーの縫製以外をすべて手作業で行う、極めてフルハンドに近い製法を採っているといいます。東欧靴というと幾多の革靴を経験したマニアが流れ着く先というイメージもあるかと思いますが、そんなマニアを唸らせるのがフルハンドならではの履き心地です。
いわゆる既成靴でフルハンドを実施しているブランドは非常に少なく、これが『最高の既成靴』と呼ばれる所以です。
ソールの縫い付けは今も手作業<出典:vass-shoes.com> |
ヴァーシュのクラフトマンシップも、
TRADITIONAL METHODS | FINEST MATERIALS | HANDMADE | HUNGARIAN
というもの。それぞれ『伝統的な製法・最高の素材・ハンドメイド・ハンガリーらしさ』といったニュアンスで、要は伝統を重視し、素材が良いということです。個人的にヴァーシュの魅力はこれに尽きると思います。
特に創始者のラズロ氏が靴作りにかける情熱は非常に熱く、その職人技術と伝統をまとめた著書『紳士靴のすべて』は、200ページにも亘る大作です。
ヴァーシュのファンのみならず世界中の革靴愛好家に愛される名著です。私は英語版と日本語版を所持していますが、写真を見ているだけで楽しいのでお勧めの1冊です。
歴史
もともと東欧圏には独自の靴づくりの文化が育まれていました。ハンガリー以外でも、マウンテンブーツで知られるセボ(チェコスロバキア)や、スニーカーで一世を風靡したルーディックライター(オーストリア)等、有力メーカーが点在することからもその一端を窺い知ることが出来ます。しかし、第二次世界大戦後に共産圏に属したために東欧の製靴産業は近代化・機械化の波に取り残され、衰退の一途を辿っていたようです。
そんな衰退しつつあったハンガリーの製靴産業を再興させるべく、1978年にラズロ・ヴァーシュ氏が立ち上げたのがヴァーシュです。彼は伝統的な技法を貫きつつも、欧州のタンナーから仕入れた最高級のカーフレザーや、多様なエキゾチックレザーを採用。伝統技術と高級素材の組み合わせは、西側諸国の紳士靴愛好家たちをも唸らせる新時代の高級ハンガリーシューズを生みだしたのです。
特徴
●ブダペスター
尤も、シルエットが箱ならば、プレーントゥでもブダペスターと呼ばれます。
同じ東欧靴であるハインリッヒディンケラッカーでもブダペスターは見られますが、そちらはもれなく分厚いトリプルソールか太い三つ編みウェルトが付いてきますので(あとブローギングの穴がでかい)、スマートな紳士靴ブダペスターを求めるなら現状ヴァーシュ一択でしょう。
迫力ある靴も勿論魅力的ですが、気分に合わせてスタイルを選べるのも、メーカーの多様性の賜物ですね。
●V字の切り返し
ヴァーシュのV-capはバランスが良くて美しい |
ブダペスターと並んでアイコニックなディテールが、V-capやサイドの切り替えなどのV字の切り返しです。ぱっと見でヴァーシュだろうな~って、わかります。私も初めてオーダーしたときは、やっぱりヴァーシュらしい靴を、と思ってブダペスターとV-capの2足にしました。
紳士靴のデザインというのは、デザイン界の中でも特に自由度の低い世界だと思うのですが、その泳ぎしろの中で一見してわかる“らしさ”を作り出せるブランドはやはり強いと思います。パラブーツみたいにタグを付けちゃうっていうのもひとつの手ですけどね。
他ブランドでもカルミナやパラブーツ、エドワードグリーンでもVキャップのモデルはありますが、やはりVキャップはヴァーシュが安定して美しいと思います。流石、Vを頭文字とするブランドだけあります。
●ハンドソーンウェルテッド
<出典:vass-shoes.com> |
ハンドソーンウェルテッドとは、甲革とソールを手縫いで縫い付ける製法の総称です。機械縫いのグッドイヤーウェルトと異なって、アッパーレザーの種類やコバの仕上げの自由度が高くなり、また足なじみの良い履き心地が得られます。
グッドイヤーウェルトが一般的となった現在では主に誂え靴で用いられる製法で、国内流通のある既成靴ではヴァーシュとディンケラッカーくらいだと思います。
歴史の項で述べた通り、東欧靴は機械化の波に乗り遅れた結果として手縫いの技術が残っていたことを逆手にとって世界的ブランドへと進化したわけですが、東欧とて職人の高齢化や後継者不足には抗えないようで、いつまで量産体制が維持できるのかはわかりません。例えばディンケラッカーは2021年でハンガリーの工場を閉鎖しています。
ハンドソーンのヴァーシュも手に入るうちに満足いくまで買っておくことをお勧めします。
●ゴイサー式ウェルト製法
ハンドソーンといえばお決まり(?)のウェルトステッチ |
ゴイサー(goyser)式ウェルト製法はヴァーシュの他、サントーニやジョージクレバリーでも採用されている伝統的なウェルトパターン。現在も手作業でのソール付けを続けているからこそなせる業です。
魅力
●カスタマイズの自由度が高い!
ヴァーシュはブダペストの工房にメールすればパターンオーダーが可能です。
パターンオーダーといっても、例えばウエストンだとオーダー価格は既製品定価の1.5倍ほどと高額ですよね。しかし、ヴァーシュならばアップチャージはゼロ! しかも年中いつでも受け付けています。
アッパーの種類も豊富で、例えばピンクだったり…
同様にお安くパターンオーダーができるブランドといえばカルミナがあります。こちらは公式サイト上でオーダーが完結し、日本語にも対応しており、関税の支払いもカルミナ側が済ませてくれるのでより親切ですね。価格帯はヴァーシュとほぼ同じなので好みで選んでいいと思います。
自分だけのオリジナルシューズを作りたいけれど、ビスポークやパターンオーダーは高い…と思っている皆様は今すぐヴァーシュ(かカルミナ)に相談しましょう。きっと納得のいくペアが手に入りますよ。
●ハイセンスな色使いや素材使い
センスの良いカスタマイズが思いつかない! という方も心配する必要はありません。
なぜならヴァーシュはレディ・トゥ・メイドでも素敵な組み合わせを提案してくれるからです。
絶妙なバランスの異素材コンビネーション<出典:Mehra> |
ヴァーシュは特にスムースレザーとスエード、スコッチグレインといった異素材コンビネーションに長けているイメージがあります。東欧ならではのセンスで生み出される斬新なペアは、眺めても履いても楽しめるものばかりです。
●豊富なアッパー
クロコダイルを贅沢に使ったセミブローグ<出典:vass-shoes.com> |
ヴァーシュのクラフトマンシップに『最高の素材』とあるほどですから、素材への妥協はありません。
珍しいウルトラヴァイオレットコードバンのペア(既に廃版) |
(余談)
同じくクロコダイルやリザードが選択できるカルミナは高級靴なのか、については意見が割れると思いますが、あっちもスペインではトップブランドですので、私は高級靴として良いと思います。中古相場は安いですけど。
●シューツリー
取っ手は着色された球状の木で、見た目も華やかです。アッパーの色とツリーの取っ手の色がリンクすればもう最高ですね。
かつてはデフォルトでついてきたのですが、現在は24ユーロ(約3200円)のオプションとなっています。それでもお得感がありますね。
●手ごろな価格帯
価格って重要ですよね。
VASSはこれだけの魅力が詰まった靴でありながら、公式サイトから購入すればお値段は417~441ユーロ(5.5~6万円くらい)。関税・送料で1万円見込んだとしても7万円でおつりが来ます。
高級革靴に慣れている方なら、このお買い得感がわかっていただけるのではないでしょうか。
それでいて、一級品としての品格もしっかり保持しています。
例えば、過去にトゥモローランドでヴァーシュの取り扱いがあったころの国内定価は14万円(税別)でした。それだけの価値を一流セレクトショップのバイヤーが認めていたことからも、その格の高さが窺えるところです。
(余談)
2021年12月のヴァーシュの新古品相場がざっくり6万円台半ば。同じくらいといえばウエストン180(定価12万円(税込))やディンケラッカーBUDAカーフ(同12万円くらい)ですので、市場価値としては同じく12万円(税込)くらいでしょうか。コロナ流行下でのセールの影響も大きいとは思いますが、トゥモローランドの値付けはちょっと高すぎかも?
欠点
●検品が甘い
これは海外から個人輸入する場合、大概のブランドで言えることですが、検品は甘いです。精緻なモノづくりになれた日本人には致命的な欠点かもしれません。
靴墨はもれなく付いてきます。このゆるさが癖になる |
ブローグが抜けていなかったり、アッパーに切り傷があったり、コバインキがアッパーについていたりは割とあります。トゥモローランドが取扱いをやめたのもR品が多いからではないかと訝しんでしまうほどにはあります。
しかしこれは裏を返せば現在もハンドメイドを続けていることの裏返しでもあるんですよね。手作業だから多少のミスはつきものですから広い心で受け入れましょう。
そうはいってもクラックがあるのは困る。 |
最近はちゃんとB級品をはじいているようで、以前(約2年前)よりかなり改善されたように思います。でも、ノーミスを求めるならば、トレポスか百貨店に行くのが無難です。
●正確にオーダーを通すのが難しい
ハンガリーの公用語はマジャル語で、英語はあまり通じません。同様に英語に不自由な日本人とが英語でやり取りをしてもどうしても齟齬が生じるわけです。
ウェルトステッチ、黒で指定したのに白になりました。“インスピレーション”だそうです。 |
ま、オーダーと違ってもちゃんと美しくアレンジされた靴が届きますので、そんなもんだと思って広い心で受け入れましょう。
●日本に代理店がない
さて、先に述べた2つの欠点を一挙に解決してくれるのが“輸入代理店”。検品やオーダーの確認をしてくれて、商品に不備があったら交換や無償修理で対応してくれる、まさに手間と安心をお金で買えるありがたい存在です。
しかし、残念ながら現在日本にはヴァーシュの代理店が(ほとんど)ありません!
買うなら自己責任。しかし、おかげで購入の障壁が高くなって、結果所有の喜びが嵩増しされているのもまた事実です。
国内には熱心な個人輸入家が購入した中古靴も出回っていますので、初心の方はまずはそこから手を出してみてはいかがでしょうか。
(余談)
2021年12月から大阪のCento trenta(チェントトレンタ)さんが取り扱いを開始しました。船場の旧ディンケラッカー直営店で販売しています。関西の方は店舗で試着して買えそうですね。ラインナップは今のところBPラストみたいな東欧伝統モデルが中心の様子。
価格はだいたい15万程度のようです。売れるんかなぁ…。
ラスト
ヴァーシュのラストには大別して、ハンガリーの伝統的なラストと、イタリア・フィレンツェ出身のビスポーク職人、Roberto Ugolini氏と組んだイタリアンラストの2種類があります。
詳細はいつの日か別記事でまとめるつもりです。いつの日か・・・。
むすび
ヴァーシュの魅力は伝わったでしょうか。
そんなに高い靴でもないので、あとは買って、履いてみてください。きっと虜になると思います。
2021年、同じ東欧靴であるハインリッヒディンケラッカーが、靴職人の後継者不足を理由にブダペストの工場を閉め、スペインへ製造拠点を移したことが革靴愛好家の間で大きなニュースとなりました。
ハンガリーの靴職人が不足する、となるとヴァーシュだって対岸の火事ではないでしょう。その見通しは必ずしも明るいものとは限りません。
ハンドメイドの技術が今まで生き残ったことに感謝しつつ、興味があるなら今のうちに、ぜひ1足手に取ってみてください。
●出典
JBPress autograph
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59318
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